またレアなDVDを入手。
『ププロジェクトVロジェクトV』。困難なプロジェクトに挑み、成功させた人々のドキュメンタリードラマではない。無謀なプロジェクトを推し進めて、史上稀に見る大災害を引き起こした史実をもとにドラマ化されたイタリア映画である。
舞台となるのは1961年に完成したバイオントダム。1963年10月9日にダムの南面に位置する石灰岩の山塊、トク山が大規模な山体崩壊を起こしダム湖を埋め尽くした結果、貯水池の水が巨大な壁となって周囲や下流の集落を襲う。
タイトルの『V』はバイオントのVである。和的に言うと『バイオント計画』である。原題は『バイオントー不名誉のダム』‥‥直訳だな‥‥である。全然違う。



映画の中では世界一のダムという言葉が何回も出てくるバイオントダム。現物(今でも遺構としてのダムはある。)を見ていないからイメージがわかないが、竣工当時世界一の262mの堰堤から見降ろす真下は、東京タワーの特別展望台から見下ろす真下よりも高い。ダムは剃刀のように薄く、渓谷は槍のように細く深い。ダムの提体積や有効貯水量などで見ると、ほぼ同時期に竣工した日本の黒4ダムや奥只見ダムのほうがはるかに大きい。日本の地形ではこれだけ薄いダムを造るのは不可能なのだろう。
2,000名以上の死者を出す惨劇の地滑りの崩壊体積は24,000万m3人災としての土砂災害としては桁外れの規模だ

質素で長カットシーン8閑な山村に突然巨大ダム建設が始まり、平和だった村にダム推進派と反対派の対立が発生していく。水没する故郷を去っていく人々と故郷を失うことを断固拒否し留まる人々。
この時期は日本を代表する巨大ダムがいくつもつくられている時期でもある。黒部の太陽のように、戦後の復興と経済発展が最優先とされ、かなりの無謀な工事が決行された時代背景は日本もイタリアも同様だったようだ。そしてダムを取り巻く人々の喜怒哀楽は、そのころの日本の各地でも起こっていたことでもある。


カットシーン1民の不安や地質学者の警告も無視して強引に工事を進める電力会社。史実では建設を推進した幹部が裁判にかけられ有罪の判決を受けるのだが、映画の中でもその社会的背景や、社内での推進派・慎重派などの葛藤が描かれている。危険性が想定できるのにもかかわらず、しかも自ら不安を覚えながらも見ぬふりをする。一旦動き出した巨大な利権は止められないまま最悪のシナリオに向かって加速度的に突き進んでいく。巨大地滑発生の過程と完全にオーバーラップしている。



カットシーン3人公の測量技師オルモは、ダムにより豊かな村になることを望む推進派だが、反対派の新聞記者と出会うことにより、少しづつダムへの疑念を深めていく。現場での友人の事故死、村人との対立。その中でやがて恋に落ち、結婚し妻は身ごもる。
映画には2曲の挿入歌が流れる。
オルモが求婚するシーンに流れる『Sterlla』。全体的に重苦しいドラマの中で、この曲が流れるシーンは数少ない癒される部分だが、日本語吹き替え版では大幅にカットされていた。


運命カットシーン5の日を迎えるダム。エンディングテーマでもある、『Proteggimi』のコーラス部分が劇的に挿入されている。
惨劇の不安が犇々と迫る中、オルモが妻の強い要望と記者の忠告により新居ロンガローネからの退避を決意したその日に悲劇は起こる。
22時39分、支えを失った24,000万m3の岩盤が貯水池に突進し、押し出された湖水はダム湖上流の村々を濁流となって襲い、さらにダムを超えて70mの水壁となりダム下のロンガローネの街を根こそぎ洗い尽くす。
すべてが失われた荒涼とした土石流の痕に泣き崩れるオルモ。
そして妻と生まれてくるべき子供を失ったオルモの老いた今日の回想シーンに戻る。彼はこの悲劇を招いた人間を絶対許さないと言う。しかし彼の本当の怒りは、運命の日に妻との約束を違えて一人だけ生き残ってしまった自分自身に向けられたものだったのだろう。

vajontーカット版は111分。日本版プロジェクトVは99分。ストーリーの展開からカットされたシーンがかなり重要な伏線部分とわかる。イタリア語がわからないことがちょっと残念。
2001年封切りの映画は、CGが飛躍的に向上した時期の作品だが、ミニチュアセットや超速度撮影などのオーソドックスな手法で50年前の現実の惨劇を再現している。CGもこの当時としてはかなり粗削りな部分が目立つが、この映画の真の見どころは、特撮やクライマックスのスペクタクルよりも、史実である惨劇に至るまでの人々の織りなす人間ドラマにこそある。

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